赤字を入れる覚悟
ライターより編集歴の方が長いので、
赤字を入れられるよりも入れてきた期間の方が長いということになります。
ライティングコーチではクライアントが書かれたものをより良くするため、
あるいは媒体や目的、のぞむ状態に合わせて「こうした方がいいと思いますよ」と思う点を指摘し、赤入れをします。
これは、とても怖い。
自分がライターとして、「赤字を入れられる」という行為によってどんな思いをするか身に染みているから。
良かれと思って入れた赤字で、傷つけはしないか。自信を失わせたり、憤慨させたり、迷わせることにならないか。
この赤字で本当にいいのか。これを反映することで、本当に良くなるのか。
自分が嫌われたり、「なんだこの程度か」とガッカリされるのは構わない。
でも絶対に、「書きたい」と思って申し込んでくださった方が、書けなくなるようなことになんて、なってはいけない。そんなのあり得ない。
その時はへこんだとしても、結果的に書けるようになるには必要な気づきだったんだと思ってもらえるフィードバックをする必要がある。
だから赤字は何度も見直してからお戻ししています。
これが編集の時は、全然そんな迷いや不安はなかった。
新人の頃の直属のリーダーや編集長が、耳なし芳一か?というくらい真っ赤にする人だったのもあって、「原稿の戻しとはそういうものだ」という相場観を植え付けられたのもあるかもしれません(迷惑)。
大きな会社あるあるで、リーダー+編集長+校正者2名に必要に応じて営業など関連各所の担当者に原稿をチェック出しして、担当者がすべての赤字のイキシニ判断をする必要がありました。
多い時で10人とか15人とかにチェック出しをするので、集約すると大変なことに。
(今思えば、あれだけの赤字が書き込まれた原稿を戻されたライターさん、かなりムカついてただろうな・・・)
でもそれだけの赤字を入れることにほとんど迷いや不安がなかった理由は、「企画」を握っているのが自分だったからです。
原稿に何が入っていなければならないか。
この原稿を読んだ読者がどうなっているといいのか。どんな行動を引き出したいか。
与えたいイメージや読後感、KPIは何か。
それを設計しているのが自分だから、「もっとこうしてほしい」とオーダーすることに迷わないわけです。
見ているのは、常に読者。
読者にこうなってほしい、これを伝えたい、こんな行動を起こしてほしい。
それを実現するために、ライターやカメラマン、デザイナーといったスタッフに力を借りている。
それぞれの専門性を発揮してもらいながら、理想の形をつくっていく。
そういうチームで仕事をしていると思っていたので、すべてのスタッフに敬意を持っていました。
私がライティングコーチとして意識しているのは、「教えてあげる」にならないようにすること。
コーチという言葉から、スポーツのコーチをイメージされることも多く、「教えてください」「アドバイスがほしい」とオーダーされることもあります。
でも、コーチはむしろちょっと後ろに立って、できるだけ俯瞰で見渡しながら一緒に探っていく、試行錯誤していく役割だと思っています。
まして、赤入れする原稿の「企画」を握っているのは自分じゃない。
目的やゴールの解釈がずれていたら、まったく意味のない指摘をしてしまうことになります。
自分が立てたわけではない企画に対して書かれた原稿に、
ライターにとって少なからずダメージを与える「赤字」を入れる。
これには、本当に覚悟がなければやってはいけない行為です。
絶対的に必要なのが、「この人に言われたことならいったん受け止めよう」と思ってもらえる信頼関係。
信頼関係なくして、添削なんて絶対しちゃいけない。
「編集」の作業には慣れていても、自分はその企画の編集者ではない。
その自覚を決して見失っちゃいけないな、とつねづね思っています。

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